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lautrec
lautrec 1864-1901

 ロートレックの絵はポスターから知った。ただ、それがポスターだとは知らず、絵の中に入っている「文字」が美しく魅力的だった。そうか、言葉を入れてもいいんだ、とこれも解放された気分だった。どんな絵でもそこに文字をいれていくと不思議に決まる。それもできれば日本語ではなくアルファベットがよかった。
 むかしデザイン学校に行っていた時代、レタリングという授業があった。明朝体や、ゴチックといった字体を筆で書いていくのだが、私はこれが大嫌いだった。溝引きという定規とガラス棒を使って、筆でまっすぐな線を書いたり塗ったりするのだが、全くうまくできずやっていて気が狂いそうだった。
 当時イラストレーターの和田誠さんが、フリーハンドの線で見事な文字を描いていた。どうみてもこっちの方が自分に合っていたので、レタリングはすぐにやめてしまった。当時イラストレーターもフォトショップもなかった。活字のような文字も大きなものは全部描き文字だったのだ。(そんな時代があったのかよ〜)
 ロートレックの文字もフリーハンドだ。しかもよく見るとそんなに上手くない。なのに絵の中に入ると洒落ていてとても粋だ。もちろん文字だけではない。彼の絵はデザイン学校の教科書に使いたいぐらい、デザインに必要な要素がすべて含まれている。大胆な構図、デフォルメされた描写、色数を押さえた中での斬新な配色。こんな絵を描くロートレックは私にとっては粋な遊び人に見えた。どの絵も全く力がはいっていない。すっと書かれている。そのイメージがずっと長かったため、写真を見たときは意外だった。
 この時代の画家は浮世絵に影響を受けた人が多い。ロートレックのポスターもそう見て取れる。しかし私にとっては直接の浮世絵より、彼らの絵の方が新鮮に見えた。彼らもきっと浮世絵に書かれた意味不明の文字が新鮮に見えたのだろう。
 言葉は力をもっている。そして文字は美しい。フリーハンドで描かれた文字は不思議に私たちを引きつける。こんなへたくそな文字がかっこいいぞ! 私の中にあった劣等感が優越感に変わる、とまではいかなかったが・・・