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klee
klee 1879-1940

 これまでいろいろ書いてきたことを読み直してみると、私はみなさんに誤解を与えているようだ。つまり、まるで子供の頃から絵が好きだったかのように・・・まあ、そんなふうに書いている。しかし本当のところはというと、・・じつは嫌いだった。特に学校の授業は、美術の時間になると気が重くなった。絵の具は色々なところにべたべた付くし、洗ってもきれいに落ちないので、めんどうでいやだった。しかも授業の内容といえば、おもしろくもない花瓶やりんごを描けといわれたり、表に出て風景画を描いてこいというものだった。これでは好きになれというのが無理だと思う。
 クレーはまるで子供の落書きだった。鉛筆でカリカリ描いたような絵で、好きなものを好きなところに好きなだけ描いたような自由さがあった。構図も色彩も遠近法も関係なかった。誰かに見せることをまったく考えていないような絵だった。私が普段描いていたのも、鉛筆でカリカリ描いた落書きのような絵だった。これはなんだと聞かないでほしい。ただ鉛筆を持つとそれが動いて線ができ、形を作り、隙間をうめ、迷路のように広がっていく。なぞったり、塗りつぶしたり、リズミカルに続いたり、単純にそんなことが楽しいのだ。
 ここに描いたのは「ルツェルン近郊の公園」というタイトルがついている。たぶん公園の地図だと思うのだが、道が色々な方向に延びていて、ところどころにサークルがある。これをまねして描いていくと、とても楽しい。単純な黒い線は少しいびつで、まちがって太く描いても、長く描いても全く問題がない。バランスが崩れてもとなりの模様が助けてくれる。
 色彩はカラフルで鮮やかなようにもみえるし、彩度を落としてバランスをとっているようにもみえる。しかしどんな色彩を当てはめてもおかしくはない。それぞれに美しいのだ。もしだれが描いても美しく描ける絵があるとすれば、それはまさしくこの絵だ。じつに単純で、大ざっぱで、のびのびしていて、ほんわかしていて、リズミカルで、カラフルで、親しみがあり、ユーモアもある。
 そうだ、こんな絵を昔描いたことがある・・と思ったら、道路にろう石で描いた絵だった。小さな模様がどんどん大きくなって、それがうれしかった。どこまでもどこまでも描いていけそうだった。